技術の家庭菜園

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Godox FC-16を用いたLUMIX用リモコンレリーズの作成

本稿ではLUMIX用のリモコンレリーズの作成を目的とする。
LUMIXでは一部の機種を除き、遠隔でのシャッター操作に対応せず、それらを行うアクセサリ等も販売されていない。
ここではLUMIX用のケーブルレリーズを分解した検討をもとに、Godox製の汎用リモコンレリーズ/フラッシュスレーブであるFC-16を用い、LUMIX用のリモコンレリーズを作成した。

背景

写真を撮るとき、ブレというのは大変大きな問題である。
ブレを低減するために三脚などに固定するが、三脚に固定したカメラのシャッターボタンは大変押しづらい。
加えて、シャッターボタンを「押す」ということはカメラに力を加えるということなので、これもブレの原因となる。
これを解決するために用いられるのが、ケーブルレリーズと呼ばれるケーブルをカメラにつないでシャッターを切ったりする製品であったり、もしくは赤外線や無線を使ってシャッターを遠隔で操作するリモコンレリーズ(リモートレリーズ/ラジオレリーズ/ワイヤレスレリーズ)である。

さて、私はしばらく前に、Panasonic LUMIX DC-S5を購入した。
それまでNikon製の一眼レフを使っていたので、赤外線式のリモコンレリーズが使用できた。*1
ところが大変に困ったことに、LUMIX製品はその多くの機種が赤外線や無線によるレリーズの機能を有しておらず、S5もその例外ではなかったのだ。
ごく少数のマイクロフォーサーズのカメラにおいて、スマートフォンの専用アプリから遠隔でのレリーズができるのみのようである。

本体がそれらの機能を有していないのであれば、外付けするしかない。
LUMIX製品各機種も、流石に、ケーブルレリーズはアクセサリーとして販売されている。
ケーブルレリーズはスイッチで操作されるはずであるので、それを遠隔化するのはそこまで難しいことに思えない。
だがしかし、調べてみるとNikon用、Canon用、SONY用の汎用リモコンレリーズは見かけるものの、LUMIX用というのは最後まで見つけることができなかった。

より詳しく調べてみると、LUMIXのケーブルレリーズはコネクタこそ汎用品であるが、内部方式が他メーカーとは大きく違うことが明らかとなった。
そのことに加え、LUMIXでリモコンレリーズを欲するような層は比較的少ないであろうことから、各サードパーティーメーカーも、それを販売していないのだろう。

内部方式が他メーカーとは違うとはいえ、前述の通りケーブルレリーズは存在し、それは内部でスイッチで操作されいるはずである。
遠隔化は他メーカーとの違いによるコスト面等の判断により市販化されていないだけで、難しくないはずである。
そのため、本稿ではGodox製の汎用リモートレリーズ/フラッシュスレーブであるFC-16、特にそれのうちNikon用であるFC-16Nを用い、FC-16からLUMIXに接続する変換ケーブルを作成することで、それを実現することを目指した。

ここで自前で遠隔のスイッチシステムを構築しなかったのは、単にFC-16Nが手元にあったからというのと、自前で作成すると小型にはできないこと、自作だと電波法等の関係から距離の制約が生まれやすいこと、そして何より面倒だからである。

LUMIX用レリーズの構造

ここではLUMIXのケーブルレリーズの構造について簡単に説明する。
本章の内容は下記のAtaron氏の検討を要約したものである。

atstudiota.exblog.jp

LUMIXのレリーズポートはマイクジャックと共用、そして(たぶん)小型化を目的に、2.5mmのTRSピンプラグにリングを一つ追加した、TRRSの4極プラグが採用されている。
実際に他機種ではプラグを外部マイクと兼用しているようであり、先端のチップとリングはマイクのLR、根本とリングとスリーブが、GNDとレリーズスイッチに割り当てられている。

通常、ケーブルレリーズは2つのスイッチで構成されている。
これは半押し状態(オートフォーカス/AEロック)と全押し状態(レリーズ)を表現するためである。
これは他社のカメラだと愚直に2つのスイッチを2つの線と1本のGND、計3本線で送るのだが、LUMIXではこの線が2本しかない。
信号線となるのがスリーブ、そしてマイクと共通で使うGNDのリングだけである。

さて、それではこの2つのスイッチの状態をどのようにして、1つの線で観測しているのだろうか。
Ataron氏がケーブルレリーズを分解すると、そこにあったのは2つのスイッチと抵抗であった。
具体的には以下のような構造である。

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https://atstudiota.exblog.jp/28354213/より引用

この回路をよく見てみよう。
何も押していないとき、この回路全体の抵抗は38.3kΩである。
まずスイッチ1を押す、これが半押し状態に対応するが、そうすると回路全体の抵抗は5.3kΩ。
次にスイッチ2も押す、これが全押し状態に対応するが、そうすると回路全体の抵抗は2.0kΩ。
もうおわかりだろうが、LUMIX製カメラはこの抵抗を拾うことで、レリーズを制御するのだ。*2
全押し状態でも抵抗があるのは、3極のプラグが挿入されたときにシャッターが切れてしまうのを防ぐためで、無操作時にも38.3kΩの抵抗値となるのは、レリーズケーブルがが接続されたことを認識するためではないかと推測される。

一般的なカメラのレリーズとGodox FC-16

前述の通り、一般的なカメラ(例えばニコンやキャノン)の製品のその多くは、シャッター専用の接続端子を持ち、半押し状態、全押し状態を単純なスイッチのみで操作している。
そのため、それに対応するレリーズはスイッチ2つ、3極を持てばよく、コネクタ形状を変更するだけで、様々なカメラに対応できる。

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Godox FC-16の付属品

Godox FC-16もそうである。リモコン側には2.5mmのステレオミニ、つまりは3極端子を持ち、スリーブをGNDとして、リングとチップにスイッチが対応する。
その形状を任意のコネクタに変換すると同時に、FC-16の内部でスイッチをON-OFFすれば、様々なカメラでレリーズが切れる。

変換ケーブルの作成

さて、ではFC-16のような汎用レリーズが2点のスイッチを持つような装置であるならば、同様に任意の回路を組み込んだ変換ケーブルを作成すれば、LUMIXでも用いることができるはずである。
このような汎用品では多くの機種に対応しコストを安くすることが求められるので、特殊仕様でかつ「たいして売れていない」LUMIXに対応する必要などがないため、LUMIX用は存在しないのである。
具体的に変換するにはAtaron氏が示した回路をそのまま変換ケーブルの体に収めれば良い。

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結線図

FC-16はS-R間、そしてS-T間をボタン操作で短絡させるだけである。
上記のように結線すれば、LUMIX側が認識するS-R2間では、FC-16側の半押し時に5.3Ω、全押しで2.0Ω、そして無操作時に38.3kΩの抵抗となる。

上記を作成していこう。材料は、特に詳細に語る必要はない。抵抗とケーブル、コネクタである。
抵抗と2.5mmの3極のストックは手元にあったが、2.5mmの4極プラグは別途調達が必要であった。結局、モノタロウで買った。
3.3kΩが用意できなかったため、3kΩと0.3kΩが代用された。
いつものように切れ端のユニバーサル基板に適当に配置し、繋げる。

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作成基板

ケースは丁度いいものがなかったので、何かのときにもらった歯ブラシのケースにグルーと一緒に押し込めた。
歯ブラシが出てくるところからケーブルを生やすことができる。
あとは適当にテープで補強すれば完成だ。

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完成品

実際に使用してみると、ちゃんと、遠隔でシャッターをきることができた。

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実際の動作する様子

使用・使用上の注意点

さて、回路は問題なく作成できたのだが、本変換ケーブルは動作が安定せず、再初期段階ではかなりしっかりとした導通テストを行いながら、定数を変更しながら作成した。
(結果それはすべて徒労だったのだが…。まぁ失敗談は別にいいか。)

結論動作不安定の原因はFC-16側の問題であった。
FC-16の動作は結局今でもわかっていないが、接続されているデバイスの状況によってスイッチのオフ抵抗の値が変化している。
おそらくはスイッチのオフ抵抗によって状態を判断するカメラがあるのか、もしくは短絡から回路を保護するためであると思われるが、ともあれ、状況によりオフ抵抗の影響が出てくる。
LUMIXはオフ抵抗の値を拾うことで、そのレリーズが使用可能かどうか判断する。
つまり異常なケーブルが挿入されたとき、例えば2.5mmのTRSケーブルが刺されたとき、それはオフ抵抗がゼロとなるはずなので、そのときにレリーズを動作させたりはしない。
この2つの機能は割とちゃんと競合するため、正しい接続の手順を踏んで接続する必要がある。
① カメラ側にケーブルを差し込む。
② FC-16が電源OFFの状態で、ケーブルを差し込む
③ FC-16の電源を入れる。
これに気をつけないと正しく動作しない。

問題点

これは本当によくわかってないのだが、テスターでRS間の抵抗を測定したが、抵抗は目標通りの値となっているのに、レリーズは半押し状態を認識せず、全押し状態のみが動作した。
これがFC-16と本変換ケーブル固有の問題なのか、はたまた私のカメラの問題なのかどうかは今ひとつわからないが、問題点、そして今後の課題として付記しておく。

終わりに

本検討は、Ataron氏の検討を大いに参考にして作成された。ここに改めて御礼を申し上げる。

また本検討のモチベーションとなったのは、某先輩夫妻より結婚式のカメラマンを依頼されたことによる。
そのため本内容の具体的な制作時期や記事の作成は、投稿より2ヶ月ほど前のことである。
私のような素人に良い機会を与えてくれたことに御礼申し上げるとともに、改めて二人の門出を心より御祝い申し上げる。

ちなみに、当日はあまりに時間がなくて本リモコンレリーズを接続・設定する余裕がなく、結局一度も使用しなかった。
まぁ、そんなもんである。別にいいけど。

 

*1:それらには100円程度の安価な互換品があるため、大変に重宝していた。

*2:実際にはある電圧を与え、電圧降下分を見ているのだろう