技術の家庭菜園

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3000円くらいで正確にシャッター速度を測りたい

古い技術ブログにありがちな大したことない内容なのに数回に記事分けて書くやつ私もやりたーい、ってなったのでやる。

背景

カメラを扱うとき、そのシャッタースピードが正しいかどうかは大きな問題だ。
シャッターはカメラに入る光の時間を調節し、写真を適度な明るさに調節する。
しかし、特に古い機械式のカメラではその時間は機械式のガバナーで、簡単に言えばゼンマイ等で制御されており、油切れやゴミの混入、もしくは変形でしばしば狂ってしまっている物も見かける。

シャッタースピードが正しくないということは、正しい露出、つまりは正しい明るさで撮れないということであり、まぁ写真としては全く頂けないのである。

当然、大きな修理店やメーカーにおいては、シャッタスピードを正しく測定する重要性から、専用の測定器を所持している。
測定器にも様々あるが、基本的には数十万円、安いものでも数万円はする。

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測定器の一例 壺坂電機株式会社 7FDC-3000 https://www.tsubosaka.co.jp/archives/product/7fdc-3000より

個人においてこれらの測定器を所持、維持するのは少々困難が伴うため、世のアマチュア写真家たちは、どうにかして簡便にそれを測定できないかと考えてきた。
ネットの大海を彷徨ってみると、実際に様々な測定方法が散見された。いくつかを紹介しよう。

・ブラウン管、蛍光灯などを撮影する

これは正しい周期で点滅している物体を動かしながら撮影を行うことにより、それの発光回数でシャッタースピードを見積もる方法である。
一見安上がりで、頭の良い方法に感じられるが、まずフィルムがもったいない。
そしてたった60Hz、16msec程度の分解能しか無く、当然精度の良い測定は期待できないし、1/60以上のシャッタースピードの測定も困難である。

・音を測定する

シャッターを切ったときの音を測定することにより、シャッタースピードを考えるものである。
実際通常マイクは44.1kHz程度のサンプリング周波数を持ち、これも一見して精度良い測定が期待できる。
しかし、実際はシャッターの音が比較的小さいことから他の様々な音を拾ってしまうし、反響音も無視できない。また音速は比較的に遅く、強く干渉も起こすため、精度良い測定は困難である。

・光を見る

ある人曰く、時計の音を聞きながら裏蓋を開け、光が漏れるのを見ると1/2000程度までならそれが正しいかどうかが判別できるらしい。
ナニソレイミワカンナイ。

とまぁ、各人はそれぞれに安価にそれを測定する方法を考えようとしたのだが、敢えて言おう、なぜ上記のような面倒な方法を取ろうとするのだろうか。

最も単純なのはフィルム位置で、実際に露光時間を測定する事に他ならない。
当然商用の測定器であっても、そうやって測定している。
なぜそれをさも困難なことのように考えて行わないのか、やればいいのだ。

測定方法

測定は単純にして明快である。フォトダイオードオシロスコープに繋いで暗室で照らしながらシャッターを切る。以上だ。
フォトダイオードオシロスコープを知らない人には申し訳ないが、ググってほしい。

極めて勤勉な一部のアマチュア写真家はクロックとカウンタを用い、そのシャッタスピードを同様フォトダイオードで計測しようとしている。*1
その技術は素晴らしいがハードルは低くはない。今であればシングルボードコンピュータ等でより簡単に作れそうだが*2、それらのコンピュータは”安くはない”。

さて、多くの人はフォトダイオードはともかく、オシロは高いし無理だとお考えではないだろうか。
しかしこの時代、オシロは、安い。
ブラウン管の頃は高いのは当然として、デジタル化されても暫く高い製品が多かったが、それも過去。今では安いものがamazonで3000円くらいで売ってる。

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amazon.co.jpオシロスコープのランキング(20/04/17閲覧)

当然精度に限界はあるが、シャッタスピードなんてたかだか数kHzの世界である。全く問題なく使える。*3

一方フォトダイオードはよくわからんメーカーのものなら1本10円で買える。
当然露光時間の測定であるため、フォトダイオードとしては応答速度が早く、暗電流が少なく、静電容量が小さいものが望ましい。
だが、今回最速で数kHzということで、ここに拘っても大して精度は上がらない。
と言いつつも、私はよくわからないメーカーのフォトダイオードが信用できず、浜松ホトニクス製S-5821を購入した。

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浜松ホトニクス S5821

1個800円ほどで10円からすると極めて高価だが、浜ホトのフォトダイオードとしては安価な部類である。
しかしデータシートを見る限り、本用途において性能は十分である。*4

試験測定

さて、それでは試しに測定してみよう。カメラはRollei 35 Xenarである。

フォトダイオードをプローブに繋いで、オシロに適当なトリガーを与えておく。*5
部屋を適度に暗くし、懐中電灯で照らすとパルスが観測される。必要に応じてレンジの各種調整を済ます。

次にカメラのセッティングである。裏蓋を開けて、受光面付近にフォトダイオードを設置する。
光源はフィルター径がいい感じだったのでレンズフィルターに懐中電灯を固定して、カメラにねじ込み固定することにした。

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相変わらず雑。作業のため電気をつけてるが、測定時には消灯する。

光源は別に手で保持しても大きな問題ではない。

絞りを開放にし、シャッターを切ればパルスがとれる。パルスの立ち上がりと立ち上がりの差がシャッタースピードだ。
シャッタースピードを1/4に設定したときの測定した結果を示そう。*6

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1/4sec設定時の測定結果

パルスは比較的良好に取れており、ノイズも許容範囲内である。ノイズはスッチング電源に由来するものであろうか、わからない。
結果は1/4secに極めて近く、正しい評価が出来ていることを思わせる。

さて次に1/500に設定したときの結果を示す。

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1/500sec設定時の測定結果

パルスの立ち上がり時間、立ち下がり時間がそれぞれ伸びているのが見て取れる。
フォトダイオードのスペックシートを読む限り、この範囲であればまだ特に問題は無いはずなので、こちらはオシロの問題と考えるべきである。
しかし、この範囲においてもパルスの立ち上がりと立ち下がりの頭は見えているので、測定は問題なく行うことが出来る。*7
実際に写真の結果で、信号が立ち上がったところと、落ち始めた所の差を読んでみるとおよそ2.2msecであり、理想値2msecと誤差はあるものの妥当な結果が読み取れる。

次回測定数を増やし、より詳細に本機(Rollei 35 Xenar)のシャッター速度を考察していくものとする。

 

 (2020/04/21追記)

tpcbtw.hatenablog.com

 

 

*1:http://home.n05.itscom.net/yone-lab/electronics/shutter/shutter.html

*2:ラズパイ等のGPIOの詳細仕様はすっかり忘れてしまったが、GPIOに繋ぐだけで何とかなりそうなもんである。もっとも応答速度から精度が出るかは分からない。

*3:これはちょっとした裏技ではあるが、実はパソコンのマイク入力をオシロ代わりにするという方法もあったりする。まぁ推奨は出来ないが興味がある方はトライしてみても良いかもしれない。

*4:https://www.hamamatsu.com/jp/ja/product/type/S5821/index.html

*5:その前に適当なクォーツで正しく測定できているかも確認しておくと良い。

*6:なぜここで写真データで、生データやスクショで示せないのか。それこそが安オシロが安オシロたる所以である。

*7:これは一般に行われるパルス幅測定と異なる。一般的なパルス幅の測定であれば、閾値(基本的にパルス振幅の半分)を設定し、その幅を測定する。今デバイスが等価で微小な静電容量を持つデバイスであるとすると、立ち上がり時間、立ち下がり時間は一致するため、パルスの頭を見る本測定と一般的なパルス幅測定は同一になる。しかし、ここでは立ち上がりと立ち下がりの時間が同一である保証が無かったので、頭を見ることにした。実際にはほぼ同一である。